LAND|Vol.03 藝とスタジオ(ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―)
2024.3.12
様々なまちを訪れ、気になる活動を行うスペースを紹介する[LAND]。3回目に訪れたのは、墨田区東向島にある「藝とスタジオ」です。「藝とスタジオ」を拠点に活動するアートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―」のディレクターを務める青木彬さんにお話を伺いました。
「ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―」(以下、ファンファン)は、東京アートポイント計画の一環として東京都墨田区を舞台に、墨田のまちに集まる人々やアーティスト、研究者らの出会いを通じて豊かに生きるための創造力を育む「学びの場」を生み出していくアートプロジェクトです。その拠点では、どのような活動が行われているのでしょうか。
Q.「藝とスタジオ」について教えてください。
以前までファンファンの拠点は墨田区の京島という場所にあったのですが、2020年に移転して始まったのが「藝とスタジオ」(以下、「藝と」)です。2階建ての建物で、1階をファンファンの拠点として利用していて、これまでの発行物やプロジェクトの関連書籍、墨田区で過去に行われた文化事業のアーカイブ資料が入っている本棚があったり、リソグラフの印刷機があったりします。2階は建築家やアーティストとのシェアオフィスになっています。「藝と」では月に数回、週1ぐらいを目安にオープンスタジオの日を設けているのですが、オープン時のプログラムは日によって違います。例えば今日は「ソーシャルワーカーを目指すキュレーターの自習室」を行っているのですが、これは今、僕が社会福祉の勉強のために通信で大学に通っているので、大学の課題を行う日をオープンスタジオにしちゃおう!と思って始めたものです。自習室と称して開けているのですが、近隣のソーシャルワーカーの人たちが噂を聞きつけて遊びにきてくれたり、みんなで勉強したいものを持ち寄って黙々と勉強したり、いい時間になっています。他にはリソグラフのワークショップやトークイベントなどを行ってみたり、タイミングによって様々な活動があります。
Q.2階をシェアしている方々と一緒に活動を行うこともあるのですか?
ファンファンとしては今のところはないですね。ただ2、3ヶ月くらい前に僕がファンファンとは別に、アーティストの中島晴矢さんと建築家の佐藤研吾さんと一緒に行っているプロジェクト「野ざらし」の交流会をファンファンのオープンスタジオに合わせて行った際、企画の一つとして「建築マニアックバトル」という会をひらきましたね。30代くらいの建築家たちが自分の好きな建築のディティールについて話をするマニアックなイベントだったのですが、そのときにシェアオフィスの建築家の人たちにも参加してもらいました。他の日でも、ファンファンが活動しているときに1階の様子を見に来たり、面白い人がいたら紹介したり、ワークショップをやってみたいと言ってくれてたり…。場所の話で言えば、1階に資材置き場があるんですけど、そこも勝手に整理してくれてたり、知らない間に変化している部分があったりして、そういうところは複数人で一つの場所をシェアしている面白さだと思っています。
Q.移転して現在の拠点になったと伺いましたが、これまでの拠点の変遷について教えていただけますか?
最初に拠点を借りたのが活動を始めてから2、3年目くらいのときで、「sheep studio」という2階建てのアトリエでした。複数の事業者が借りている場所に僕らも間借りさせてもらっている状態だったので、僕らの行うイベントだけでなく、滞在しているアーティストが展覧会をやっていたり、日々いろいろなイベントが開催されていました。僕らもワークショップやトークイベントを1、2回ほど行いましたね。その後「sheep studio」が閉じることになったので、僕が個人的に関わっていた喫茶店に移り、そして今の「藝と」に移ってきたという感じです。
Q.今の場所に移転してから拠点の在り方に変化はあったのでしょうか?
「sheep studio」は大通りにあり、拠点の目の前もバス停になっていて人の往来も多かったので、おばあちゃんがフラッと「ここなに?」って入ってくるような環境でした。入り口もガラス張りで、意識的にオープンスタジオとかを行わなくても人がやってくるので、「広報誌を作る時間はこの日の何時です。」みたいな告知だけしておいて、一緒にやりたい人はフラッと来て一緒に作る、というように様々な人と関わることができていました。でも今の拠点は京島とは少し文化圏が変わるんですよね。それでいて住宅街の奥まった、道路のどんつきの場所にある。前までの拠点と違って目的がある人しか来ないので、以前よりも集客という意味では大変な面も出てきました。でも、それが今の僕らの活動としては丁度よくて…、というのも京島エリアでは日々、様々なイベントが起こっていてワチャワチャしているところがあった。移転してそうした状況から身を引いたことで、自分たちの活動を落ち着いてできる環境になりました。そうなったことで、よりファンファンの活動のテーマに近しいネットワークの人たちと繋がれるようになりました。
Q.ファンファンの活動にはどのようなテーマがあるのですか?
最初からテーマがはっきりと決まっていたわけではないのですが、なんとなく「福祉」と「アート」みたいなものはこっそり潜ませていました。2019年に「sheep studio」で行ったファンファンの拠点開きのイベントの際も、実は福祉関係の書籍が並べてありました。また、2020年にオル太というグループが墨田区に1ヶ月間滞在してリサーチと展示を行った際にも、僕からの話題提供として墨田区で盛んに行われていた「セツルメント運動」というイギリス源流の地域福祉の歴史についての話をして、オル太もその内容を深掘りしてリサーチをしてくれていました。(展覧会「超衆芸術スタンドプレー 夜明けから夜明けまで」)僕自身もそうですし、墨田区の歴史の中でも「福祉」というキーワードはずっと続いていたのかなと思います。特に最近は墨田の福祉施設の方と一緒に企画を行うことが増えたこともあり、僕の中でも一層社会福祉への関心が高まり、今年度から大学にも通い始めたので、より「福祉」というキーワードがファンファンの活動の表に出てきたのではないかと思います。
Q.ファンファンの活動の中での「藝と」の役割はなんでしょうか?
以前、足立のアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」で拠点「仲町の家」を運営している吉田武司さんと拠点についてのディスカッションをしたときがあって、「仲町の家」はギャラリーのような、作品の発表の場として維持している場所になっていました。(Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと-|仲町の家(吉田武司)×藝とスタジオ(青木彬))一方で僕らの拠点は、発表を行うためというよりも自分たちの事務所、表現をするための準備を行うアトリエになっています。同じ拠点でも[ショーケース]と[アトリエ]という違う性質を持った場所になっていて、「『藝と』はみんなで話し合ったり、活動を行って考えを深めていくのに適した場所だよね。」ということを言われて「確かに。」と思いました。これまでファンファンは福祉施設とか空いてた工場とか、まちの中をショーケースにしていたんですよね。これはオル太と展示をやったときにも話したことですけど、まちのあちこちで活動を続けていって10年後くらいにもう一度全ての作品を再展示したら、まちの中で芸術祭ができるね、なんてことも考えていました。
―「藝とスタジオ」をアトリエに、まちをショーケースとして活動するファンファン。「福祉」と「アート」をテーマに続く彼らの活動が周りにどのような変化をもたらしていくのか、10年後の墨田区の姿が楽しみです。
青木彬(インディペンデント・キュレーター)|一般社団法人藝とディレクター。一般社団法人ニューマチヅクリシャ理事。1989年東京都生まれ。東京都立大学インダストリアルアートコース卒業。アートを「よりよく生きるための術」と捉え、アーティストや企業、自治体と協働して様々なアートプロジェクトを企画している。これまでの主な活動にまちを学びの場に見立てる「ファンタジア!ファンタジア!─生き方がかたちになったまち─」(東京都、東京アートポイント計画、2018年~)ディレクターなど。
藝とスタジオ|東京都墨田区東向島5-23-3
(詳細は「ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―」の公式WEBサイトをご確認ください。)
Interviewee : Akira AOKI
Interviewer : ACKT
text : Ryo ANDO
photo : Kensuke KATO