カフェとアートからはじまった、100年後も続くまちづくり(前編)|SANDO BY WEMON Projects / サンド バイ エモン プロジェクツ
2022.5.27
東京都国立市内外の方とともに活動(ACT)し、まちとともに成長するさまざまなプラットフォームを育てることを目的とした団体である「一般社団法人ACKT」が、各地で実践されている文化芸術活動の担い手や活動、仕組み等について「場づくり」「体制」「アートプロジェクト」等の観点からリサーチ取材を行い、レポートにまとめました。
今回から、アートプログラム「SANDO BY WEMON Projects / サンド バイ エモン プロジェクツ」の取り組みを、全2回にわたりご紹介します。
鎌倉時代から続く、日蓮宗の大本山「池上本門寺」。その周辺に広がる池上のまちには、商店街や住宅、そして多くの町工場があります。
2019年5月〜2022年2月、東急池上線池上駅から池上本門寺へと続く参道の入り口に、カフェ「SANDO(サンド)」がオープンしました。
コーヒーやサンドイッチ、スイーツなどを提供する、一見普通のカフェ。ですが、実は小田桐奨(おだぎり・すすむ)さんと中嶋哲矢(なかじま・てつや)さんのアーティストユニット「L PACK. / エルパック」が、立ち上げから運営、プロジェクトの推進に携わる、アートとまちづくりの拠点でもありました。
「SANDO」が開かれた3年間、まちにどのような変化が生まれ、何を残していったのでしょうか。
100年後の未来のために、即効性のないまちづくりを考えよう。
「SANDO」が生まれた経緯は、大田区と東急電鉄がまちづくりの協定を結んだことからはじまります。
2021年にリニューアルする池上駅を中心に、地域資源を活かしたまちづくりと地域の継続的な発展を目指す「池上エリアリノベーションプロジェクト」という大きな構想の一環として、池上駅前に「まちづくり拠点」を作る計画が立ち上がりました。
プロジェクトメンバーには、L PACK.と建築家の敷浪一哉(しきなみ・かずや)さんが加わりました。3人は、2018年にも横浜市の郊外にある旧日用品市場を改修し、日用品の販売とコーヒーが飲めるお店「DAILY SUPPLY SSS」をオープンしています。
「まちづくり拠点」ではなく「カフェ」として開くことは、L PACK.からの提案でした。
「まちづくりの拠点をまちづくりのために作っても、興味を持って訪れる人は限られてしまいます。人が集まる場を作るのなら、普段から気軽に入れる、誰に対してもフラットなカフェのような場所がいいと、プロジェクトのミーティングでお伝えしました」(小田桐)
まちづくりの課題は、空き家・空き店舗の活用や、子育て、高齢化問題など、地域によって多岐に渡り、すぐには解決できないことも多くあります。
「当時の池上では、1922年の開業から100年近く使われていた池上駅舎の建て替えや、東急電鉄の100周年も重なって、これからの100年のことを考えていこうという機運がありました。100年後にはきっと僕たちはいないし、想像もつかないように思えます。けれども今あるものを紐解くと、100年前に企画や事業が立ち上がり、続いているものもある。目先の課題解決への即効性のみを追求するのではなく、即効性はないかもしれないけれど、100年先に残したい本当に大切なものを見つけていけるといいと考えました」(中嶋)
「普通の会話」を重ねながら、まちをリサーチする。
SANDOの設計・施工はL PACK.と敷浪さんが手がけ、旧池上駅舎の木材もベンチや床材として活用。お客さんとコミュニケーションが取りやすいオープンキッチンのカフェとして、2019年5月にオープンしました。
まずは地域のリサーチを目的としていましたが、訪れる人に「リサーチに協力してもらう」というスタイルではありません。カフェにはL PACK.の2人も立ち、あくまでもスタッフとしてお客さんと接しながら、「お近くですか?」「この辺に美味しいお店あったら教えてください」といった、ごく「普通の会話」を重ねていきました。
「池上は自分たちにとっても初めての場所だったから、どんな人がいて、どんな意見が出てくるんだろう? とワクワクしました。作品と向き合うギャラリーよりも、カフェは滞在時間が長くなるし、普通の会話がしやすいですね」(中嶋)
オープンしてみると、想像以上にいろいろなお客さんが訪れました。年齢層は0歳から90代まで幅広く、近所の人をはじめ、作家やアーティスト、ミュージシャンも多く訪れる場所になっていきました。
池上は歴史のあるまちで、先祖代々の付き合いも多く、「外から中にいる自分が見えない店でくつろぎたい」というお客さんの要望から、お店の窓や戸口を外から見えないように閉じるという通例がありました。そんな中でSANDOのようなオープンスタイルのカフェは珍しく、同時に求められてもいたのです。
Interviewee :LPACK. |WEMON Projects https://lit.link/wemon
Interviewer : ACKT
text : Yu Kato photo : Kensuke Kato