アートプログラムとまちの風景(中編)|Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]

前編はこちら:アートプログラムとまちの風景(前編)|Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]

アートとまちづくりの拠点が、あらゆる人に開かれた場になっていくまで。

「MAT, Nagoya」が拠点を置く「Minatomachi POTLUCK BUILDING(港まちポットラック)」は、もとは10年間空きビルになっていた旧文具店でした。

ビルの改修・整備を手がけた「ミラクルファクトリー」代表の青木一将さんは、愛知県立芸術大学の彫刻科出身で、当時は大学を卒業して間もない頃でした。経験は少なかったものの、木や石などのあらゆる素材を扱った施工や鉄の溶接などができ、「あいちトリエンナーレ」でのアーティストとのコラボレーションや街中のアートプログラムの施工などで経験値を上げ、今では現代美術のインストーラーチームとして各地の美術館などを手がけています。

「1階『ラウンジスペース』は、まちづくりやアート関連の情報が閲覧できる場所で、イベント時に活用されています。2階『プロジェクト・スペース』は、まちづくりやコミュニティに関わる展示、ワークショップ、ミーティングを行う場所で、『港まち手芸部』『港まち俳句の会』などの地域団体の展示や町内会議なども行われます。3階『エキシビジョン・スペース』は、MATが企画・運営する現代美術を中心とした企画展などを行う場所です。4階はMATの母体『港まちづくり協議会』のオフィスとして使われています」(吉田)

ACKT事務局メンバーが港まちポットラックに伺った時、3階の「エキシビジョン・スペース」はオープンスタジオとして開かれており、ニットアーティスト・パフォーマーのオノ リナさん、アーティストの古橋まどかさん、アーティストの山下拓也さんがまちに滞在しながら創作活動をしている様子を見ることができました。

これは、アーティスト、デザイナー、ミュージシャンなどの表現者の制作や発表活動をサポートする「MAT, Nagoya・スタジオプロジェクト」という取り組みです。地域の人にとって、普段なかなか目にすることができないアーティストの制作現場や、滞在中に制作された作品に触れられる機会にもなっています。

「1階から3階は、誰でも自由に出入りできる場所。そこでは、アートに触れる・イベントに参加するだけでなく、地域の子どもが遊びに来たり、年配の方が『携帯電話の使い方を教えてくれないか』と聞きに来たり、近所に暮らすパキスタン出身の家族が『子どもの遊び場がない』と居場所のように通ってくれたりと、身近な公共スペースとして利用されている方もよく見かけます」(吉田)

 「アートに関心がある・ないに関わらず、いろんな人が訪れている印象です。一方で、港まちポットラックのことをまちの人みんなが知ってくれているかというと、まだまだかな、とも感じます。ここでは営利事業にあたるお店を開くことはできませんが、『お茶が飲めます』『本が読めます』といった明確な目的があれば、もっと入りやすくなるのかもしれません」(青田)

港まちポットラックは、毎週火曜日から土曜日、11時から19時に開室しています。開室時間中は誰でも立ち寄ることができ、MATや港まちづくり協議会主催の企画展やワークショップ、毎月第2土曜日には『みなと土曜市』というマーケットも開催されています。多様な取り組みがほとんど途切れることなく行われていることで、港まちに賑わいを生みながら、アートとまちづくりへの興味関心の入り口を開いています。

多様な「かかわりしろ」があることで、予想もしなかったことが起こって、広がっていくこともある。

「MATを立ち上げた当初は、『アーティストやアートのための場を作ろう』と考えていました。まちづくりの課題解決のためのアートや、まちづくりのための場ではなく、アートのための場を作っていこうという思いは今も変わりません。でも、実際蓋を開けてみたら、アートだけでは広がらない面白さをすごく感じることができたんです。アートとまちづくりは異なるものだけれど、溶け合って共存していくことができる、という実感が積み重なっていきました」(青田)

アートとまちづくりが溶け合う事例として、「MAT, Nagoya・スタジオプロジェクト」でまちに滞在したニット・アーティストの宮田明日鹿さんが、編み物が得意な港まちのおばあちゃん達と「港まち手芸部」を立ち上げたというケースがあります。作品そのものがまちを変えるわけではないけれど、アーティストが滞在することで、結果として新たなコミュニティが生まれたり、人の動きが生まれることが結果としてまちのニーズや課題解決につながったりと、ゆるやかな変化も見られるようになりました。

港まちポットラックを訪れる人の目的が多様であるように、アートプログラムや場に参加する人々の「かかわりしろ」も多様です。実際に参加者に話を聞くと、「アートプログラムだと思わず参加した」という声もあり、アートに興味がなかった人もアーティストと会話をしたり作品に触れたりする機会が増えることで、「これはこういうことを表現しているんでしょう?」といった話題が自然と出るようになるなど、アートに対する“慣れ”が出てくる人もいるそうです。

「MATのメッセージに、『アートそのものは、まちを変えるためには存在していません』と明記しています。これはMATの活動初期から問い続けていることで、異なるものだからこそ、それぞれが同居するバランスが重要だと思っています。それはアーティストや場があればすぐに実現できるというものではなく、まちの中で活動するプロセスや目的が異なる人々とのつながりを育む、優れたつなぎ手・調整役の存在が必須であるとも感じます」(吉田)

アートやアーティストがまちに溶け込むと、人がアートやまちに関わる様々な「かかわりしろ」が増えていきます。多様な人を巻き込むことは、結果としてまちづくりにもつながっていきます。まちづくりの課題ありきでなく、トップダウンでもない、ゆるやかなつながりづくり。MATの活動は、港まちにゆるやかな変化をもたらし続けています。

Interviewee : Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya] https://www.mat-nagoya.jp/
Interviewer : ACKT
text : Yu Kato photo : Yuki Akaba

 

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