遊◯地|URBANING_U ONLINE レポート2

前編はこちら:遊◯地|URBANING_U ONLINE レポート1

街と対峙するエクササイズプログラム

DAY1当日、エクササイズプログラムとして、参加者は「URBANING U_KIT」を手に、それぞれの自宅またはオフィスなどを拠点として、常時Zoomミーティングに参加しながら、mi-ri meterからの指示のもと、拠点やまちなかでのワークを実施しました。以下がWORKとして出された指示の一覧です。

WORK1
普段登らない場所に登りなさい。
普段通らない場所を通りなさい。 

WORK2
あなたの定点を探しなさい。

WORK3
その定点を掃除しなさい。

WORK4
普段使っているものを定点にそっと置きなさい。

WORK5
そこに種を植えなさい。

プログラムでは、WORKごとに拠点を出発し、まちの中で指示を実行し、拠点に戻ります。その間は基本的にまちと対峙する「わたし」の時間です。雪が積もり、歩道に変化が生まれている札幌、雑居ビルが林立する新宿、繁華街が広がる神戸、周囲を木々に囲まれた大分の集落。各人の体験は、各々の記述と共に携帯端末などの動画によって共有・記録されるほか、常時「高架下臨時スタジオ」のスクリーンに映し出され、同じ指示の基、異なる環境下で、時にスタジオにいるmi-ri meterと対話しながらWORKが続いていきました。

例えば、新宿の雑居ビルを登る時、非常階段を一段ずつあがる不安感は、周囲の建物よりも高い5階以上になると、自然と消えていった。木の上に登ろうとしたら、体が重くて難しかった。花壇の上に登ったり、橋の欄干に掴まって歩いたり、普段と違う行動をとることは、周囲の視線が非常に気になる行為だと気付いた。定点とした場所を掃除したら愛着が生まれた。指示に従ってWORKを行うことで、普段は意識していない、まちと自身の関係性が浮き彫りになっていきました。

DAY2の前半はレビュートークとして5つのWORKを通して感じたことや見えてきたものについて、参加者の内の6人が、それぞれの視点からディスカッションを行いました。プログラムには、今年度から一般社団法人ACKTのスタッフになった安藤涼が国立市で現地参加をしていました。ここからはDAY1の体験や、DAY2でのディスカッションについて、安藤によるレポートをお届けします。

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こんにちは。ACKTの安藤です。
URBANING U ONLINE、DAY2の前半はDAY1のプログラムに参加した方々のレビュートークを行いました。今回はその時の様子を、プログラムに参加した私自身の感想も交えながらお伝えします。

「大人のテリトリー」「子供のテリトリー」

今回のプログラムはオンラインで行われたため、全国から参加者が集まりました。札幌から1名、東京からは開催拠点である国立から2名、小金井から1名、新宿から2名、神戸から1名、大分から1名の計8名が参加したプログラムとなりました。それぞれ違う場所からの参加でしたがDAY1の振り返りを行う中で「子供の頃を思い出した。」という共通のワードが上がってきました。

私自身も[WORK2 あなたの定点を探しなさい。]の「地図を見ずに、感覚で街を彷徨いなさい。」という指示に従い、街の中で落ち着けるポイントを探して歩いている時に、小学生の頃に家の近所で秘密基地になる場所を探して歩き回っていたことを思い出しました。当時は、街中を路地の奥まで探検してみたり、草が生え放題の空き地に飛び込んで行ったり、使われていない空き家に侵入したりしていました。

そういえば、成長するにつれて路地裏などの道以外にはあまり目がいかなくなった気がします。そんな大人と子供の違いを参加者の1人が「テリトリー」というワードで説明していました。

国立から参加したAさんは「家の近所に大きな木があり、よく小学生がその木に登って携帯ゲームをしている」という話をされました。今回のWORKの中で自分もその木に登ってみようとチャレンジしたところ、体重や体力などの関係で全く登れなかったそうです。街の中には物理的に子供だけしか行けない場所も存在する、ということですね。

このように街には、「大人のテリトリー」「子供のテリトリー」そして「動物のテリトリー」があるという話になりました。それぞれ街を歩くときの目線や視点、目的が違うのでそこから見えてくるものも結果的に違ってくるということなのかな、と話を聞きながら考えていました。

テリトリーの話題の中でもう一つ面白かったのが「自分」と「他人」のテリトリーの境界についてです。その話をしてくれたのは、新宿から参加したHさんです。

Hさんは[WORK1 普段登らない場所に登りなさい。普段通らない場所を通りなさい。]の中で、雑居ビルの非常階段を登ってみたそうですが、「普段であれば絶対にこんな事はできなかった、今回のプログラムの中で『WORK を行う』という設定を与えられたことで行動することができた。」と言っていました。確かに、私自身もプログラムに参加している、与えられた役を演じている、というある種の言い訳があったからこそ、普段は行けないような場所に行くことができたのかなと思いました。

また、Hさんは「今回行けた場所には今後も平気で行けるようになった、自分のテリトリーが広がった。」とも話してくれました。他人のテリトリーだと思って踏み込めなかった場所も一度行ってしまえば、意外と平気だったな。という気持ちになることってありますよね。案外、自分のテリトリーを狭めてしまっているのは、自分自身の気持ちの問題だけなのかもしれません。

1人で見る景色、2人だから見える景色

札幌から参加したMさんは雪が積もる中、1本の木を定点としてWORKを行っていました。

[WORK3 その定点を掃除しなさい。]では、木のそばに置いてあったスコップを使い、周りの除雪を行なったそうです。「1人で除雪をしていたので、そばの道路から続くように道を作るくらいしかできなか った。もし2人とかでやっていたら道を作るだけでなく、もっと大胆なことができたと思う。」と話していました。私もこのプログラムに参加している時、何も悪いことをしているわけではないのに周りの人の目が気になって行動を躊躇う場面があり、自分で思っているよりも普段から人の目を気にして生きているのだなということを強く感じました。

「1人」「2人」というキーワードが出てきましたが、プログラム参加者の中には同伴者と参加した方もいました。

神戸から参加していたHさんは、小さなお子さんと一緒にWORKを行い、自分と子供の感じ方の違いを楽しく体験していたようでした。私がHさんのお話のなかで興味深かったのは、[WORK1]の際、子供が凹凸の多い家の塀にしがみついて登ろうとしているところを、通りすがりの人が「頑張れ~」と応援してくれた、というものです。大人がやっていたら 100%不審に思われるような行動ですが、子供が同じことをすると、怪しまれないどころか応援される行動に変化するというのは面白い気づきでした。対象が大人か子供かによって観察者の捉え方が変わってしまうのは、無意識に見た目で人を判断してしまっているということかもしれません。

また、大分から飼い犬と共に参加していたFさんは、犬の自由な行動を観察するのが面白かったそうです。突然川の中に飛び込んだり、本能のままに行動する姿は、人と一緒に行動するのとはまた違った面白さがあるでしょうね。Fさんも真似して川の水を触ってみたら、想像よりも温かかったそうです。そういった自分1人では見つけられなかった発見ができるのも、2人で行動する醍醐味かもしれません。1人だからこそ感じられることもあれば、 2人いるから見える景色もある、今回のプログラムに参加して改めて気付かされました。

パブリック空間と自分

自分の定点を決める時に参加者に共通していたのが、「座れる場所」を基準に探していたということです。公共空間で自分がくつろげる場所を見つけようとすると、座って落ち着きたいという気持ちが出てくるのでしょうか? 参加者の話しを聞いていると「座れる」というワードと共に、体の一部を「隠したい」というワードも出てきました。新宿のHさんは、定点を人通りの多い道の植え込みのような場所にしていました。「人通りが多い中で靴を脱いでくつろいだりするのは恥ずかしかったけど、座ると足元が隠れるので少し安心できた」そうです。そういえば、普段の生活の中でも、電車の端っこの席に座りたいなど、体の一部を守れるような場所を探している気がします。人間は本能的に体の一部を隠せると安心できるのでしょうか?

また、[WORK4 普段使っているものを定点にそっと置きなさい。]の「まず遠くから 10 分(定点を)観察しなさい。」を行う際に、国立のAさんが「自分の定点は道路に面している場所だったので、少し離れた歩道から観察をしないといけなかった。ただ立ち止まって観察するのはすごく恥ずかしかった。」と言っていました。ただ、ガードレールに背をもたれたり、携帯を見るフリをしてみたところ、恥ずかしさが和らいだそうです。

私自身も定点を観察する際、犬の散歩をしているおばあさんからずっと訝しそうに見られてドキドキしていたので、Aさんの気持ちがとてもよく分かりました。A以外にも人通りの多いところでプログラムに参加していた人は全員、周りの視線を気にしながら活動していたのではないかと思います。

今回は URBANING U ONLINE の体験レポートをお届けしました。プログラムを行う場所はバラバラでしたが、参加者が共通した感想を持っていたり、それぞれの視点からしか見えていなかったことを共有できたことが面白かったです。私は今回のエクササイズを通して、街と自分の関わり方について考えたり、参加者同士の会話のなかで新しい発見があり、街への視野が広がった濃厚な 2 日間を過ごすことができました。また、国立で「URBANING_U」 を行う際はぜひみなさんも参加してみてください。

後編では、DAY2のプログラムの様子をレポートします。

 

artist:mi-ri meter(ミリメーター)

宮口明子、笠置秀紀によって活動開始。建築、フィールドワーク、プロジェクトなど、ミクロな視点と横断的な戦術で都市空間や公共空間に取り組む。日常を丹念に観察し、空間と社会の様々な規範を解きほぐしながら、一人ひとりが都市に関われる「視点」や「空間」を提示しいている。宮口明子、笠置秀紀によって活動開始。建築、フィールドワーク、プロジェクトなど、ミクロな視点と横断的な戦術で都市空間や公共空間に取り組む。日常を丹念に観察し、空間と社会の様々な規範を解きほぐしながら、一人ひとりが都市に関われる「視点」や「空間」を提示している。

text : Kensuke Kato, Ryo Ando 

photo : Yuki Akaba